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2019.6.1 中部本部夏季講演会

昨年2018年の世相を表す漢字が「災」だったように、近年自然災害の頻度が顕著に高まっていることから、技術士としても大いに関心を持つべきとの思いで、その内容が含まれていた表記講演会に参加しました。

話題が土木建築系の技術士にとって身近な面があったせいか、参加者が約100名と多く非常に盛況でした。また講師自身二人とも技術士会内部の人ではないので、ある意味技術士を叱咤激励しつつ自由闊達な話が聞け、大変参考になりました。

1.「持続可能性の時代に」・・・中日新聞 飯尾 歩 氏
ここ何十年の社会の動きをマスコミの立場からずっと見てて、地球温暖化の問題にしろ、廃プラスチックスの問題にしろ、農業の問題にしろ、ずっと以前から提起されているのに実はほとんど前進していないですよ、と言うのが飯尾さんの現場的な肌感覚から見た結論です。
最近SDGsがブームになっていますが、書かれていることは至極当たり前のことです。それをブームだからのような感覚で表面的に考えたらダメで、もっと本質的にどうなってきてどうすべきだということを考えなければいけないと示唆されました。

例えば、レジ袋の問題やマイクロプラスチックの問題にしろ、何十年も前から提起されていますが、少なくとも日本では本質的な面で全然改善されておらず、環境先進国だなんて言えたのはもうはるか昔で、今は決してそんなことを言えない状況だといったことを言われていました。

本当のところはどうか、自分自身でも調べてみないと分かりませんが、確かに変わってないなとは思います。

また、森林の持続可能性や農業の持続可能性についても、結局効率化や大きな資本の論理が優先され、日本自身の持続可能性が怪しくなっているとも言われていました。

社会の効率化と持続可能性の追求は、実は相反する面があることを留意すべきだと思います。

2.「次の震災で日本を終わらせないために本当のことを話してみよう」
                                                                               ・・・名古屋大学 福和伸夫 氏
冒頭にも書きましたが、なかなかセンセーショナルな講演でした。
記憶している範囲で言われたことの断片を記します。

・南海トラフ地震は必ず起きる(首都直下地震や大阪地震、富士山噴火も必ず起き
 る)
・令和になってもっとも危険。政治的な変動と大地震は連動していることが、歴史
 を俯瞰すると良くわかる(政治の歴史しかみてない人や地震しか見てない人はそ
 ういう見方ができない)。
・南海トラフ地震が起きたら、人的被害(死者)は20万人以上、経済損失は200兆
 円以上と推計されている。防災対策の効果は限定的。因みに、東日本大震災の
 人的被害は2万人弱、経済損失は約20兆。日本の年間予算は100兆円なので、今
    のままだと日本経済はヤバい。
 (これは講師の話にはなかった部分ですが、関東大震災の人的被害は14万人で、
 経済損失は当時のGDPの約1/3と推計されています。日本の現在のGDPは約500
 兆円ですので、南海トラフ地震の被害は、相対的に関東大震災同等又はそれ以上
 と言えます。)
・建物の現在における耐震基準には大きな不備がある。実態を反映しない基準に基
 づいて設計が行われているので、実際の地震になったら、断層上や高層ビルにお
 いて倒壊が起きる可能性がかなり高い。むしろ低層の木造住宅の方が壁で支えて
 いるので倒れない。
・日本において一番都市を集中させてはいけない東京、神奈川地区に人口が密集し
 ている。大阪だって活断層の真上。そうした危険性をだれも心から心配していな
 い。
・人口密集地に巨大地震が発生したら、インフラが本当にやばい。中部地方も工業
 用水などが地震で壊滅的になる可能性があり、自動車産業がストップしてしま
 う。
 中部地方の自動車産業がストップしたら日本経済への影響は甚大。
 電気も日本の場合融通が利かないしくみになっている。北海道地震でブラックア
 ウトが発生したのが一つの教訓だが、例えば、周波数変換設備もヤバいし、内陸
 部で近くに発電所が無い地域は、復旧が後回しになる可能性が高い。

ここから先は、技術士会や技術士に対する注文です
・技術士が21部門にも分かれているなんて全くばかげている。縦割りもいいとこ
 だ。それをおかしいと思わないところもダメ。
・技術士は全体を見通す力と、歴史などの人文科学の勉強もして物事を総合的に見
 られないとダメ
・建築設計基準など、世の中にはおかしなことが一杯あるのに誰も言い出さない。
 技術士が一番言わなければならないはずなのに、勉強不足で知らなかったり、知
 っててもだまってしまっている。

地震防災の話は技術の部門を超えて考えるべき問題だと感じました。



コメント

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新型コロナウイルス直近の状況について

前回、今のままだと懸念が大きい旨記しましたが、あれから約1カ月が 経ち傾向がはっきりとしてきました。 1カ月前に東京の新規感染者数は30~40人/日レベルだったのが、現在は200~ 300人と7~8倍に増加し、全国に至っては50~60人/日が500~600人/日と10倍 に増加しています。 残念ながら、この結果は「攻めの検査」によるものとは決して言えず、明らかに 市中感染が拡大している結果です。 昨日、政府による現状認識に関する記者会見がありました。それを見て思ったこと をまとめます。 1. 今後、爆発的に拡大したり、逆に収束したりする可能性は低く、緩やかに増加  するか、同じ水準を保つか、緩やかに減少するか3つに1つであるだろう。     但し、そのうちどれになるかは神のみぞ知る領域であるとの見解でした。  そもそも感染爆発の定義自体が曖昧な中で、このように合理的な根拠のない話を  すること自体信じがたいです。  説明に使われてたグラフの縦軸がもし日々の感染者数だとしたら、緩やかに増加  イコール指数関数的な増加です。  あと、現在は市中感染のレベルじゃないという判断をしていましたが、市中感染  の定義自体も曖昧です。そもそも、第1波の消え残り的な潜在的感染者が市中に  存在していたはずなので、もう市中感染レベルですし、そもそも客観的な感染率  を見出していない中で結論じみたことは言えないはずです。 2.一番気になるのは、いまだに対策の柱が「個人レベルへの注意喚起」と   「クラスター対策」に留まっていることです。  いわゆる第1波を経て、人々は既に相当レベルの注意をしているのに注意喚起を  強める程度では拡大速度を少しだけ緩めるだけの効果しかありません。  そもそも人間はロボットじゃないですし、それに行動目標自体があいまいな中で    当然個人ごとに解釈のずれや分布も生まれます。  怖いのは、うまくいかなかった時に、為政者側は注意喚起したのに国民がそれに    従わなかったせいだと、責任のがれに利用される可能性が大きいことです。 3.クラスター対策がうまくいくのは、あくまで感染初期です。しかもそれは、    大規模な検査による多くの陽性者の発見とセットになって初めて成功します...

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